海外の銀行口座から少し利息が発生していたのに、それをアメリカの確定申告に含めていなかった――そんな経験はありませんか?
数字を見直してみたら、幸いにも他の控除や外国税額控除があって、追加の税金は発生していないことに気づいた。
そんなとき、あなたと税理士はこう考えるかもしれません。
「この場合、**DIIRSP(遅延国際情報申告手続)**を使えばいいのか? それとも ストリームライン手続なのか?」
IRS(米国内国歳入庁)はこのようなケースをどう扱うのか、分かりやすく説明します。
1. まずは2つの制度を理解しよう
DIIRSP(Delinquent International Information Return Submission Procedures)
この制度は、次のような納税者が対象です:
-
国際的な情報提出書類(例:Form 8938、Form 5471、Form 3520 など)を提出し忘れた
-
その理由について**合理的な理由(reasonable cause)**がある
-
その提出漏れに関連して、未申告の所得や未納税がない
つまり、「収入の申告は正しく行っていたけれど、提出書類だけ忘れていた」場合に使える制度です。
ストリームライン手続(Streamlined Filing Compliance Procedures)
一方でストリームライン手続は、**悪意のない(non-willful)**ミスをした人のための救済措置です。
たとえば、
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外国資産や海外所得の申告をしていなかった
-
修正申告を行い、未納税を支払う必要がある
という場合に適用されます。
アメリカ居住者向けの「ドメスティック版」と、海外居住者向けの「フォーリン版」があり、前者では5%のペナルティが課されることがあります(後者は通常免除)。
2. グレーゾーン:所得の申告漏れはあるが、税金は増えない
ここが悩ましいポイントです。
たとえば、200ドルの外国利息を申告していなかったけれど、控除や外国税額控除で結果的に追加の税金はゼロだった場合。
このとき、「税金が増えていないなら DIIRSP で大丈夫」と思いがちですが、実は違います。
DIIRSP は「未申告の所得」があると使えない
DIIRSP は、「未申告の所得がまったくない」納税者だけが対象です。
たとえ税金が発生していなくても、所得の申告漏れがある時点で対象外になります。
「未申告の所得はありません」と主張することが事実と異なるため、後で問題になるリスクがあります。
3. ストリームライン手続のほうが適している理由
ストリームライン手続は、まさにこのような「所得を申告し忘れたが、悪意はない」ケースを想定しています。
IRSの公式FAQ(FAQ 6)では、次のように説明されています:
「その年に総所得(gross income)が報告されなかった外国資産は、ペナルティ計算の対象に含まれる。」
つまり、IRSが重視しているのは「総所得が申告されたかどうか」であって、「課税所得が増えたかどうか」ではありません。
したがって、結果的に税金が増えなくても、ストリームライン手続の方が正しい選択といえるでしょう。
4. どちらを選ぶべき?
状況 |
所得の申告漏れ |
追加税額 |
適切な方法 |
申告書類の提出忘れ(所得は全て申告済み) |
❌ なし |
❌ なし |
DIIRSP |
海外所得の申告漏れがあり税金も未納 |
✅ あり |
✅ あり |
ストリームライン手続 |
海外所得の申告漏れがあるが追加税なし |
✅ あり |
❌ なし |
多くの場合ストリームライン手続 |
少額であっても未申告の所得がある場合は、ストリームライン手続を選ぶ方が安全です。
5. まとめ
海外所得の申告漏れがある場合、たとえ税金が発生していなくても DIIRSP は対象外 になる可能性が高いです。
ストリームライン手続を使うことで、「非故意のミスだった」と明確に説明し、IRSへの信頼を保ったまま是正することができます。
また、DIIRSPは、ファイルした年だけが対象になり、ファイルしていない年は、時効が開始していないので、IRSはいつでもあなたを追及できます。しかしストリームラインは、一度だけ行い、それ以降コンプライアンスすることだけ要求されますので、過去のファイルしていない部分は、通常心配する必要はありません。
早めの対応が、後々のリスク回避につながります。
⚠️ 免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法律上の助言を構成するものではありません。
各納税者の状況は異なり、IRSの手続や方針も変更される可能性があります。
海外資産や海外所得の未申告に関する問題がある場合は、必ず専門の国際税務に詳しい税理士・弁護士にご相談ください。