はじめに:なぜ「401(k)の30%源泉徴収」が問題になるのか
米国を離れる日本人や外国籍の方が年々増える中で、「Covered Expatriate(カバード・エクスパトリエイト)」という言葉を耳にする機会も多くなっています。特に、長年アメリカで働き、401(k)などの退職年金を積み上げてきた方にとって、出国後に30%の源泉徴収が課されるのではないかという不安は非常に大きなものです。
インターネットや一部の解説では、
- 「出国したら401(k)は全部30%取られる」
- 「相続しても自動的に30%」
- 「IRAも同じ扱い」
- 「租税条約があるから大丈夫」
といった情報が混在しています。しかし、これらの多くは正確ではありません。
本記事では、Covered Expatに該当する場合でも、合法的に30%源泉徴収を回避できるケースについて、実務家の視点から丁寧に解説します。
Covered Expatriateとは何か(簡単な整理)
Covered Expatriateとは、米国税法(IRC §877A)に基づき、一定の要件を満たして「米国を税務上出国した人」のうち、以下のいずれかに該当する人を指します。
- 純資産が一定額(インフレ調整後)を超える
- 過去5年間の平均所得税額が基準を超える
- 税務コンプライアンスの要件を満たしていない
Covered Expatになると、「Exit Tax(出国税)」の枠組みが適用され、特定の資産について特別な課税や源泉徴収ルールが発生します。その代表例がEligible Deferred Compensation(適格繰延報酬)に対する30%源泉徴収です。
401(k)と30%源泉徴収の基本ルール
まず重要なのは、30%源泉徴収がいつ適用されるのかという点です。
米国出国税法では、次のように整理されています。
- 30%源泉徴収は
- Covered Expat本人が
- Eligible Deferred Compensation(例:401(k))を引き出す場合
- にのみ適用される
逆に言えば、
- 引き出さない
- Covered Expat本人以外が引き出す
という場面では、同じ401(k)であっても30%源泉が適用されない可能性があるのです。
「相続=30%」は誤解である
非常によくある誤解のひとつが、
「Covered Expatが亡くなったら、401(k)は相続時に30%課税される」
というものです。
結論から言うと、これは誤りです。
なぜ誤解が生まれるのか
多くの人が、
- 出国税(Exit Tax)
- 相続税(Estate / Inheritance)
- 源泉徴収(Withholding)
を混同して理解してしまっています。
しかし、30%源泉徴収は相続税ではなく、あくまで「Covered Expat本人による引き出し」に対するルールです。
なぜ相続後の引き出しには30%がかからないのか
米国税法上、Eligible Deferred Compensationに対する30%源泉徴収は、
Covered Expatriate がその給付を受け取る場合
に限定されています。
つまり、
- Covered Expat本人が生前に引き出す → 30%源泉あり
- Covered Expatが亡くなり
- Non-Covered Expatの相続人(配偶者や子)が引き出す → 30%源泉は非適用
という整理になります。
これは「抜け道」ではなく、法律の条文構造そのものに基づく結果です。
この方法が使えないケース(重要)
ただし、すべてのCovered Expatがこの戦略を使えるわけではありません。以下のケースでは注意が必要です。
① 生前にCovered Expat本人が引き出す場合
- 任意の引き出し
- Required Minimum Distribution(RMD)を含む
これらはいずれも30%源泉徴収の対象になります。
② 相続人もCovered Expatである場合
受取人自身がCovered Expatに該当する場合、同様の問題が再発します。
③ IRAや非Eligible Deferred Compensation
401(k)と同じ感覚で扱われがちですが、
は別ルールが適用されます。ここを混同すると重大な誤りにつながります。
④ 相続税・遺産税の問題は別途発生
30%源泉を回避できても、
がゼロになるわけではありません。
RMDという「時間制限」の存在
この戦略を考えるうえで、現実的に無視できないのが**RMD(Required Minimum Distribution)**です。
RMDの基本
- 原則として73歳以降
- 毎年必ず一定額を引き出す義務
- 計算式:
- 前年12月31日の残高 ÷ IRSの平均余命テーブル
何が問題になるのか
「亡くなるまで一切引き出さない」という戦略は、
によっては現実的でない場合もあります。
重要なのは、
生前に「大きく」取り崩さないこと
というバランス感覚です。
ケーススタディ:具体例で理解する
ケース
- Covered Expat
- 年齢:68歳
- 401(k):$2.5 million
- 生存中は引き出す必要なし
- 配偶者・子供はいずれもNon-Covered Expat
結果
- 生前:401(k)は維持
- 死亡後:配偶者または子供が相続
- 相続人が引き出す際:30%源泉徴収なし
このように、事前に条件を満たしていれば、結果は大きく変わります。
実務上、必ず確認すべきポイント
この戦略を検討する場合、最低限以下の点は必ず確認が必要です。
- 自分がCovered Expatに該当するかの正確な判定
- 401(k)がEligible Deferred Compensationであるか
- 受取人(Beneficiary)のステータス確認
- エステートプラン全体との整合性
- 将来のRMD対応
プロフェッショナルアドバイスの重要性
401(k)、出国税、相続、源泉徴収は、
が複雑に絡み合う分野です。
インターネット情報や一般論だけで判断すると、数百万ドル単位の差が生じることも珍しくありません。
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免責事項(Disclaimer)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の個人や状況に対する税務または法律アドバイスを構成するものではありません。税務上の取り扱いは個別事情により大きく異なります。実際の判断や申告にあたっては、必ず米国税務および国際税務に精通した専門家にご相談ください。