#FBAR

米国、ニュージーランド在住の米国人夫妻をFBAR違反で提訴

米国政府がニュージーランド在住の米国人夫妻をFBAR故意違反で提訴した事例を解説。巨額ペナルティの背景と訴状内容をわかりやすく紹介


United States v. Barribeau & Solomon(D.D.C.)の概要解説**

2025年11月、米国政府(United States of America)は、ニュージーランド在住の米国市民 James L. Barribeau 氏 および Catherine Solomon 氏(別名 Catherine Barribeau) を相手取り、FBAR(外国銀行及び金融口座報告)違反に基づく民事罰金の徴収 を求める訴訟をコロンビア特別区連邦地方裁判所に提起しました。

このケースは、海外在住の米国市民が長期間にわたりFBARを提出しなかった場合、どのような法的リスクを負うのかを示す典型例として注目されています。


1. 訴訟の概要

訴状によれば、アメリカ政府は財務省の指示および司法省(Attorney General)の権限のもと、両被告に対し 2005年から2012年の8年間にわたる故意(willful)FBAR違反 に基づく民事罰金の徴収を求めています。

訴状では、以下が明記されています:

  • 31 U.S.C. §5321(a)(5) に基づく故意FBAR違反ペナルティ

  • 両被告は 海外金融口座残高が年間 $10,000 を超えていたにもかかわらず、FBARを提出しなかった

  • 過去にFBARを提出した実績があるため、義務を知っていた(=故意の証拠)

  • IRSはすでに罰金を正式に「課税(assessment)」し、通知を行っている

  • 被告は支払わず、米国は回収のため訴訟に至った


2. 被告の背景:長期の海外生活と多数の海外口座

James Barribeau 氏

  • 米国ウィスコンシン州生まれの米国市民

  • 1977年にSolomon氏と結婚

  • 南アフリカ→ニュージーランドへ移住

  • ニュージーランドのANZ BankやKiwibankなど多数の口座を保有

  • 少なくとも2001年にFBARを提出したことがあり、義務を“知っていた”と推認される

  • 2005〜2012年のFBARは未提出

Catherine Solomon 氏

  • 英国ロンドン生まれ、南アフリカ育ち

  • 1976年に米国移住、後に米国市民

  • Coutts、Natwest、Macquarieなどで個人口座を保有

  • 夫と同じく多数の共同口座を管理

  • 2001年に夫がFBARを提出した事実が義務認識の根拠とされている

両名は長年にわたり複数の海外金融機関に口座を保有し、合計残高は常に $10,000以上 であったとされています。


3. 法的義務:海外口座がある米国人はFBARが必須

アメリカ市民または米国居住者は、

合計残高が年間 $10,000 を超える外国金融口座を保有している場合、翌年6月30日までにFBARを提出する義務
(31 U.S.C. §5314 / 31 C.F.R. §1010.350)

と定められています。

両被告は2005~2012年分のFBARを期限内に提出しておらず、さらに “義務を知っていたのに提出しなかった” という理由で 故意(willful)違反 と判断されています。


4. Barribeau 氏に対する請求額(合計 $1,110,397)

財務省は2023年11月17日に8年分の罰金を正式に課税(assessment)。主な金額は以下の通り:

  • 2005年:$114,388

  • 2006年:$189,082

  • 2007年:$179,333

  • 2008年:$99,003


  • 合計:$1,110,397

通知後も支払いがなく、遅延利息が現在も加算されています。


5. Solomon 氏に対する請求額(合計 $2,521,909)

財務省は2023年11月9日にSolomon氏のFBAR違反について以下の罰金を課税:

  • 2005年:$181,562

  • 2006年:$276,060

  • 2007年:$393,562


  • 合計:$2,521,909

通知後も未納のため、利息が継続的に追加されています。


6. 米国政府の求める救済(Relief)

訴状では次のような判決を求めています:

  1. 被告それぞれに対し 課税済みのFBARペナルティ全額+利息の支払い命令

  2. 訴訟費用(costs)の支払い

  3. その他裁判所が適切と認める救済


7. 本件のポイント:なぜ “Willful” と判断されたのか

政府は以下を根拠として「故意のFBAR違反」を主張しています:

  • 過去にFBARを提出したことがある

  • 夫婦で口座管理しており、義務を容易に確認できた

  • 会計士・金融アドバイザーに相談できる環境にあった

  • 複数の金融機関に広範な口座を保有していた

  • 8年間にわたり一度も提出していなかった

これらは、典型的な willful blindness(故意の盲目)reckless disregard(無謀な無視) の判断材料とされています。


まとめ

United States v. Barribeau & Solomon は、海外に長く居住し多額の資金を外国口座で管理していた米国人が、FBAR義務を怠った結果として巨額の民事罰金を請求されているケースです。

この訴訟は、
「海外在住でも米国市民である限りFBAR義務は免除されない」
という IRS の明確な立場を再確認させる事例と言えます。

FBAR問題は故意か非故意かでペナルティが大きく変わるため、海外口座を保有する米国人は十分な注意が必要です。


【免責事項 / Disclaimer】

本ブログ記事は一般的な情報提供および教育目的で作成されたものであり、法律・税務その他専門的アドバイスを構成するものではありません。掲載内容は今後の法改正や裁判手続により変更される可能性があり、特定の法律判断に利用すべきではありません。ご自身の状況については、必ず資格を有する弁護士または税務専門家にご相談ください。

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