米国市民でない配偶者にとっては、相続税の複雑な規則を理解することは特に難しいことです。
米国市民でない配偶者のための相続税の基礎知識
遺産税は、死亡した人の財産の譲渡に課される税金です。米国では、この税金は被相続人の死亡時の資産の公正市場価値に対して適用されます。米国市民でない配偶者の場合のルールについて正確に理解していただきたいと思います。
残された配偶者が米国市民の場合は、夫婦間の資産の移動に関する婚姻控除が無制限に適用されます。つまり遺産税は課税されません。この無制限のルールのことを英語でUnlimited Marital Deductionと言います。配偶者が亡くなって、資産がすべて米国市民の配偶者に移動しても、最終的には、米国政府が市民に対して遺産税を課税できるので、この制度があると筆者は考えます。
しかし非米国市民配偶者には、制限があります。まず米国贈与税と遺産税を合わせた生涯非課税枠(現在約$1400万)以上の資産は、課税対象になります。そして、さらに夫婦共有資産がある場合は、もうひとつのルールが適用されます。それは米国市民でない生存配偶者は、共同所有資産に対する経済的貢献を証明できない限り、共同所有資産に対する即時課税に直面する可能性があるということです。米国市民であれば、共有資産を半分ずつにわけて遺産とすることができます。
前述の「経済的貢献」ですが、英語ではContributionという言葉を使います。共同財産つまりJoint Assetsの死亡時の処理は、Surviving Spouseと呼ばれる生き残った配偶者が、その共同財産を築くのに、どのくらいの割合でContribuitonしたのかを証明できないと、共同所有の資産でもすべての金額が亡くなられた人の資産と見なされるわけです。もう少し説明を続けましょう。
相続税における米国市民と非米国市民配偶者の違い
米国市民と非米国市民とでは、相続税のルールが大きく異なります。第2040条(b)(1)に基づき、米国市民が共同で所有する資産は、通常、相続税法上、夫婦で折半されます。しかし、この規則は非米国市民には適用されないのです。つまり、米国市民である方がSurviving Spouseになられた場合は、亡くなられた方と共同で持たれていた資産は、半分がお亡くなりになられた配偶者のものと見做されます。しかし非市民はこの特典がないのです。
さらに、第2056条(d)(1)(B)では、米国市民でない配偶者は無制限の婚姻控除を受けることができないと規定されています。この結果、課税対象となる遺産が多くなる可能性があります。その代わりに、米国市民でない配偶者は、適格国内信託(QDOT)を利用して相続税を繰り延べる必要が出てくる場合があります。
QDOTですが、現在米国の贈与税と遺産税をひとつの枠に入れた生涯非課税枠がひとり$1400万近くありますので、多くの米国市民でない配偶者は、課税の心配はありません。しかし、この金額を超えるような資産をお持ちの方は、前述のQDOTの必要性が出てきます。
非米国市民配偶者の遺産税最小化戦略
米国市民でない配偶者は、相続税を最小化するためにいくつかの戦略を用いることができます。その一つは、生前贈与を行うことで、課税遺産を減らすことです。この戦略は、年間贈与税免除を活用し、贈与税をかけずに財産を相続財産から移転させる手段も含みます。また年間の贈与枠を超えての贈与も贈与税の申告をし、自身の生涯非課税枠を減らすことで達成できます。ただし、米国では、死亡前3年以内に移動した米国資産の価値が含まれます。コードセクション2104(b)を参照しないといけません。このルールは、非常に誤解を受けやすいルールで、専門家の解釈が必要になってきます。つまり、3年以内であれば、すべての移動した資産が含まれるというわけではないのです。多くの海外の専門家は、このルールの理解が間違って解釈している場合が多いようです。
繰り返しになりますが、もう一つの効果的な戦略は、適格国内信託(Qualified Domestic Trusts: QDOTs)を利用することです。このような信託を利用することで、遺産は配偶者控除の対象となり、遺された配偶者が他界するか、信託から元本を引き出すまで相続税を繰り延べることができます。
米国市民でない配偶者のための法的手段と信託
QDOT以外では、取消不能生命保険信託(ILIT)などの他の信託や法的手段も遺産計画に役立つ。これらのツールは、相続税を支払うための流動性を提供し、即時課税から資産を保護することができます。
また、米国の遺産税対策として生命保険の購入が米国では有効です。米国に資産を残されて、自身が米国非居住者(Non-Resident Alien) になる場合には、コードセクション2105により、保険の受取金は、米国の遺産税の対象からは除外される規定になっています。このポイントは、このブログの構成からすると、少しポイントがずれていますが、米国遺産税対策の有効手段として覚えておいてもらいたいポイントです。
専門家に相談し、個別の相続計画を立てる
相続税法は複雑であるため、米国市民でない配偶者は、国際相続計画を専門とするプロフェッショナルに相談することが極めて重要です。それらのプロフェッショナルは、各自の状況に合わせた個別 のアドバイスを提供し、法律上の問題を解決し、税負担を最小限に抑える手助けを してくれます。しかし、国際相続は二国間のルールを考慮しないといけないために、扱われる人が非常に限られているのも事実です。
これらのプロフェッショナルは、QDOTやその他の信託など、必要な法 的構造を確立し、相続計画が節税効果があり、米国法に準拠していることを確認する 手助けをすることもできます。また相続税対策に国際税務の観点から有効な手段を示してくれます。
免責事項
当社は法律事務所ではなく、法的サービスを提供するものでもありません。その代わり、国境を越えた人生の旅をナビゲートするための税務アドバイスを提供しています。また、このブログの情報はごく一般的なものであり、法的アドバイスとみなされるべきものではありません。
本情報の使用により生じるいかなる結果についても、当社は一切の責任を負いません。個人的な法的アドバイスについては、資格のある弁護士にご相談ください。また、国際的な遺産プランニングに優れた弁護士と協力し、相続税のプランニングをお手伝いすることも可能です。
最後にこのブログは国際間に締結されている個々の相続税条約は考慮に入れておりません。条約自体が国ごとに違い、多様性があるからです。日米の相続のプランニングをするときは、両国の専門家の専門意見を聞くことが不可欠です。