出国後の贈与にかかる米国の40%課税と、期限内申告による例外ーCovered Expatのための注意点
出国後の贈与にかかる米国の40%課税と、期限内申告による例外
Covered Expatが注意する贈与税――「贈与税申告をすれば免税」という理解が危険な理由
米国籍を放棄した人や、一定の長期永住者としての税務上の地位を終了した人から、米国市民・米国居住者が財産を受け取る場合、贈与を受けた側に米国の税金が発生することがあります。その根拠が、米国内国歳入法(IRC)Section 2801です。
ただし、すべての元米国市民・元グリーンカード保有者からの贈与が対象になるわけではありません。まず、贈与者が税法上の「covered expatriate」に該当するかを確認する必要があります。本稿では、この判定を満たす人を「対象出国者」と呼びます。
Section 2801には、一定の贈与を課税対象から外す例外があります。その一つが、Section 2801(e)(2)(A)の「課税贈与を期限内に申告した場合」の例外です。条件を満たす財産については、受贈者にSection 2801の税金はかかりません。一方で、贈与者には通常の米国贈与税が別途発生する可能性があります。
理解の鍵は、「申告した贈与」「課税贈与」「実際に納税額がある贈与」を区別することです。書類を提出したという事実だけで、すべての贈与がこの例外に該当するわけではありません。
1 Section 2801と通常の贈与税は、誰に課税するのかが違う
通常の米国連邦贈与税は、原則として財産を贈与した人に課されます。これに対し、出国税の一部であるSection 2801は、対象出国者つまりCovered Expatriateから一定の贈与・遺贈を受け取った米国市民または米国居住者に課される税です。
この「居住者」は、所得税の居住者判定と必ずしも一致しません。贈与・遺産税では、住所・生活拠点とその場所に住み続ける意思に関係するdomicileという考え方が重要になります。グリーンカードの有無や米国滞在日数だけで、贈与者・受贈者の扱いを決めないことが大切です。
2025年・2026年のこの特殊な贈与税の税率は40%です。原則的な計算では、受贈者がその年に受け取った対象贈与と対象遺贈を合計し、年間19,000ドルの除外額を差し引いた金額に税率を適用します。外国で支払った贈与税・相続税による調整などが関係する場合は、別途検討が必要です。
この19,000ドルは、対象出国者一人ごとに使える金額ではなく、受贈者の年間合計に対する金額です。また、通常の贈与税で使われる生涯の基礎控除額を、受贈者のSection 2801の計算にそのまま使うことはできません。
2 例外を使うために必要な二つの条件
Section 2801(e)(2)(A)の例外には、次の二つの条件があります。
第一に、対象出国者による財産移転が、Section 2503(a)にいう「taxable gift」、つまり米国の通常の贈与税制度上の課税贈与に該当すること。第二に、その課税贈与が、贈与者の期限内に提出された贈与税申告書に記載されていることです。
使用する申告書は、贈与者の地位に応じてForm 709またはForm 709-NAとなります。Form 709-NAは、米国市民ではなく、贈与税上も米国非居住者である人のための申告書です。
両方の条件を満たす部分は、Section 2801の「covered gift」の定義から外れます。そのため、その部分について受贈者に40%のSection 2801税が発生することはありません。税率を下げる措置というより、対象となる課税贈与をSection 2801の課税対象から除く仕組みです。
ただし、申告書に載っている財産の全額が除外されるとは限りません。課税贈与として申告された部分と、年間除外額などによって課税贈与から外れた部分を分けて検討します。
3 「課税贈与」でも、贈与者の納税額がゼロになることがある
課税贈与という言葉は、必ず現金で納税しなければならないという意味ではありません。贈与税の計算では、年間除外額や配偶者・慈善団体への贈与に関する控除、過去の課税贈与、利用可能な税額控除などを検討します。
適格な贈与者に利用できる統一税額控除によって、最終的な納税額がゼロになる場合でも、財産移転の課税贈与としての性質がなくなるとは限りません。実際の税額と、Section 2801(e)(2)(A)の対象になる課税贈与かどうかは、別々に確認する必要があります。
通常の贈与税も最高税率は40%ですが、課税贈与額に一律40%を掛けて終わる制度ではありません。累進税率と過去の課税贈与を踏まえた計算を行います。「どちらも40%だから負担は同じ」とは判断できません。
なお、2025年の基本的な基礎控除額は13,990,000ドル、2026年は15,000,000ドルです。ただし、これは利用資格のある人に関する金額です。Covered Expatriateの贈与者は、租税条約による扱いなどを除き、通常、この統一税額控除を利用できません。対象出国者だから当然に大きな生涯控除を使える、という理解は避けるべきです。
4 必要なのは期限内申告――期限内納税とは区別する
最終規則では、この例外の条件として「期限内に贈与税を支払うこと」は要求されていません。規則案にあった期限内納税の条件は、最終規則で削除されました。したがって、課税贈与を期限内に適切に申告した場合、納税の遅れだけを理由にこの例外が使えなくなるわけではありません。
もっとも、贈与者に贈与税の支払義務があれば、その義務は残ります。支払いが遅れれば、利息や延滞に関する負担が発生する可能性があります。また、贈与税の未払いについて、一定の場合に財産を受け取った人に対する徴収が問題になることもあります。Section 2801がかからないことと、財産移転に伴うあらゆる税務上の責任がなくなることは同じではありません。
一方、申告期限を過ぎてから提出した場合は、この期限内申告の例外を利用できません。後から申告したり、贈与税を支払ったりするだけで、例外の要件が回復するわけではありません。同じ財産移転について、贈与者の通常の贈与税と受贈者のSection 2801税が両方問題になる可能性があります。
贈与税申告書の通常の提出期限は、原則として贈与した年の翌年4月15日です。有効な申告期限延長がある場合などは、その扱いも確認します。申告期限の延長と納税期限の延長は別問題なので、提出予定日と支払予定日の双方を管理する必要があります。
5 年間除外額の部分は、申告してもこの例外の対象にならない
通常の米国贈与税では、もらった人がすぐに使えるお金や財産を贈る場合、一定額までは贈与税の計算から除くことができます。2025年・2026年は、贈る人一人につき、受け取る人一人への年間19,000ドルまでが対象です。
ただし、贈る人の贈与税がかからないからといって、受け取る人にも税金がかからないとは限りません。 対象出国者からの贈与では、受け取る人にSection 2801の税金がかかるかどうかも、別に確認する必要があります。「対象出国者」とは、米国籍や一定の長期永住者としての地位を放棄し、税法上の条件に該当する人です。
ここで注意したいのが、二つの制度にある「年間19,000ドル」の違いです。
- 通常の贈与税: 贈る人一人から、受け取る人一人への贈与ごとに使います。
- Section 2801: 受け取る人が、その年にすべての対象出国者から受け取った課税対象の贈与・相続財産を合計して、年間19,000ドルを差し引きます。
また、通常の贈与税で19,000ドルの対象となった部分は、贈与税申告書に記載しても、それだけでSection 2801の「期限内申告による例外」が使えるわけではありません。
25,000ドルの贈与を期限内に申告した場合
例えばCovered Expatriate が、米国内不動産の所有権の一部を米国の家族に贈ったとします。その価値は25,000ドルで、家族はすぐに利用でき、借金の引き受けや代金の支払いはないものとします。
通常の贈与税では、25,000ドルから年間19,000ドルを差し引いた6,000ドルが、贈与税の計算対象になります。この6,000ドルを贈る人が期限内に適切に申告すると、その部分にはSection 2801の税金がかかりません。ただし、贈る人自身の贈与税は別に計算します。
残る19,000ドルには、この「期限内申告による例外」は使えません。しかし、受け取る人にその年ほかの課税対象の贈与・相続がなければ、Section 2801にも年間19,000ドルの控除があるため、受け取る人の税額はゼロになります。
つまり、受け取る人に税金がかからない理由は、次のように分かれます。
- 6,000ドル: 贈る人が期限内に申告したため、Section 2801の対象から外れます。
- 19,000ドル: 受け取る人の年間控除で差し引かれます。
申告が遅れた場合
同じ贈与でも、贈る人の申告が期限を過ぎると、6,000ドルに対する「期限内申告による例外」は使えません。
ほかの例外や外国で支払った税金による調整がなければ、受け取る人の税額は次のようになる可能性があります。
(25,000ドル-19,000ドル)×40%=2,400ドル
二人から19,000ドルずつ受け取った場合
二人の対象出国者から、同じ年に19,000ドルずつ受け取った場合にも注意が必要です。
それぞれの贈与が通常の贈与税の年間19,000ドルの枠内に収まっていても、Section 2801では、受け取る人の合計額である38,000ドルを使って計算します。受け取る人が差し引けるのは、年間合計で19,000ドルです。
ほかの例外や調整がなければ、税額は次のようになります。
(38,000ドル-19,000ドル)×40%=7,600ドル
6 日本の財産を任意に申告すればよい、という制度ではない
日本に生活拠点を移した対象出国者から、日本の銀行預金や日本の不動産などを贈与する場合、「Form 709-NAに書けばSection 2801を避けられる」と考えるのは危険です。
米国非居住・非市民の贈与者について、通常の米国贈与税は、一般に米国内に所在する不動産や有形財産の贈与を対象とします。国外財産や一定の無形財産は、通常、この課税範囲に入りません。米国法人の株式も、通常の贈与税では無形財産として扱われるため、米国資産という理由だけで課税贈与になるとは限りません。
通常の贈与税の対象外である財産を、任意に米国内財産として扱って申告し、この例外を選択する仕組みは認められていません。IRSの最終規則の説明でも、このような選択を認める提案は採用されませんでした。
一方、Section 2801では、財産が日本にあることだけで課税対象から外れるわけではありません。したがって、「通常の米国贈与税がかからない」と「米国の受贈者にSection 2801税がかからない」は、別々の結論です。財産の種類、所在地、移転方法、贈与者の地位、租税条約などを確認する必要があります。
7 贈与前に確認しておきたい書類と情報
実務では、まず贈与者がCovered Expatriateに当たるか、受贈者がSection 2801の対象となる米国市民・居住者かを確認します。そのうえで、財産の種類と所在地、評価額、贈与日、贈与者の通常の米国贈与税上の地位を整理します。
期限内申告の例外を利用する場合は、Form 709またはForm 709-NAの写しだけでなく、対象財産の明細、課税贈与額の計算、申告の提出日を確認できる記録、必要に応じて期限延長の資料も残しておくことが重要です。受贈者は、贈与者が「申告する予定」と言っていることだけを前提に、自分の税務処理を確定しないほうがよいでしょう。
受贈者側では、同じ年に受け取ったほかの対象贈与・対象遺贈も集計します。Section 2801の申告にはForm 708を使用します。また、この例外によりSection 2801税が発生しない場合でも、外国からの贈与に関するForm 3520など、別の情報申告義務が残る可能性があります。
相続による移転には、Section 2801(e)(2)(B)という別の規定があります。本稿の生前贈与の説明を、相続財産にそのまま当てはめないことも大切です。
8 判断の中心は「課税贈与か」「期限内に申告されたか」
Section 2801(e)(2)(A)は、米国の通常の贈与税制度上の課税贈与を、贈与者が期限内に申告した場合に適用される例外です。条件を満たす部分について、受贈者はSection 2801税を負担しません。ただし、贈与者の通常の贈与税は別途検討します。
申告書に載せた財産がすべて例外に入るわけではなく、通常の贈与税の年間除外部分や、そもそも米国贈与税の対象外となる財産には注意が必要です。贈与する前に、誰に、どの制度の税金が、どの金額について発生するのかを確認しておくことが、後からの思わぬ負担を防ぐための第一歩となります。
CHI Borderへのご相談
国籍放棄・永住者としての税務上の地位の終了後の贈与では、日本と米国の両方の税務を踏まえた確認が必要です。CHI Borderでは、日米間の贈与・相続に関する税務上の論点を整理し、個別の状況に応じた申告の検討をサポートします。
免責事項
本稿は2026年10月時点の公表資料に基づく一般的な情報であり、個別の税務・法律上の助言ではありません。計算例は記載した前提に基づく簡略化したもので、外国税による調整やほかの例外等を考慮していません。実際の取り扱いは、適用年度、居住・国籍の状況、財産の性質、条約、申告状況等により異なります。
参考資料
IRSおよび米国連邦規則の一次資料。公開時に各年度の最新版をご確認ください。
[1] 26 CFR §28.2801-3(c)(1):期限内に申告された課税贈与の例外と年間除外部分の扱い
https://www.ecfr.gov/current/title-26/chapter-I/subchapter-B/part-28/section-28.2801-3
[2] IRS, T.D. 10027, Internal Revenue Bulletin 2025-09:最終規則の説明。「3. Exceptions to Definitions of Covered Gift and Covered Bequest」を参照
https://www.irs.gov/irb/2025-09_IRB
[3] IRS, Instructions for Form 708:税率、受贈者の年間除外額、情報申告との関係
https://www.irs.gov/instructions/i708
[4] IRS, Instructions for Form 709-NA:非居住・非市民の課税範囲、申告期限、控除等
https://www.irs.gov/instructions/i709na
[5] IRS, Instructions for Form 709:通常の贈与税の計算、年間除外、統一税額控除等
https://www.irs.gov/instructions/i709
[6] IRS, What's New — Estate and Gift Tax:2026年の基本的な基礎控除額
https://www.irs.gov/businesses/small-businesses-self-employed/whats-new-estate-and-gift-tax