#PFIC

Form 8621の「25,000ドル基準」を正しく理解する――扶養家族、名義口座、米国移住前のPFICまで解説

Form 8621の25,000ドル基準を解説。少額保有の例外、超過分配・売却益、子どものPFIC、名義口座、米国移住前の保有期間をわかりやすく説明します。


日本の投資信託、外国籍ETF、外貨建てMMFなどを保有する米国納税者にとって、PFIC(Passive Foreign Investment Company:受動的外国投資会社)は非常に重要な税務問題です。PFICに該当する金融商品を保有すると、通常の外国金融口座報告とは別に、Form 8621の提出や複雑な所得計算が必要になることがあります。

実務上、特に誤解が多いのが「PFICの価額が25,000ドル以下ならForm 8621は不要」という説明です。

結論からいうと、25,000ドル基準はForm 8621全体に適用される包括的な免除ではありません。これは、一定のSection 1291ファンドについて、Section 1298(f)に基づく年次報告、すなわちForm 8621のPart Iの提出を免除する限定的な例外です。

したがって、保有価額が25,000ドル以下であっても、超過分配、売却益、QEF所得、時価評価所得、PFICに関する選択などがあれば、Form 8621の提出が必要になる可能性があります。

そもそもForm 8621はいつ必要になるのか

米国人がPFICの直接または間接株主である場合、主に次のいずれかに該当すると、PFICごとにForm 8621を提出する必要があります。

  1. PFICから一定の直接または間接分配を受けた
  2. PFIC株式の売却その他の処分により利益を認識した
  3. QEFまたはSection 1296の時価評価制度に基づく情報を報告する
  4. Form 8621のPart IIに記載するPFIC関連の選択を行う
  5. Section 1298(f)に基づく年次報告義務がある

原則として、PFICが複数あれば、それぞれについてForm 8621を作成します。PFICが別のPFICを保有する「PFIC間の連鎖」がある場合には、間接保有するPFICについても別のForm 8621が必要になることがあります。IRSのForm 8621 Instructions

このように、Form 8621には複数の独立した提出理由があります。25,000ドル例外が関係するのは、このうち主として5番目のSection 1298(f)年次報告です。

25,000ドル例外の適用要件

一定のSection 1291ファンドについて25,000ドル例外を利用するには、一般的に次の条件をすべて満たす必要があります。

  • 課税年度末における直接・間接保有PFIC株式の対象価額が合計25,000ドル以下である
  • 夫婦合算申告の場合は、夫婦の対象PFIC株式の合計価額が50,000ドル以下である
  • そのSection 1291ファンドから超過分配を受けていない
  • その株式の売却その他の処分により、超過分配として扱われる利益を認識していない
  • そのPFICについてQEF選択を行っていない
  • その他の独立したForm 8621提出要件がない

財務省規則は、この例外をSection 1298(f)によるForm 8621提出義務からの例外として規定しています。したがって、「25,000ドル以下ならPFIC申告はすべて不要」と理解するのは正確ではありません。Treas. Reg. §1.1298-1(c)(2)

また、一定のPFIC間接所有については、別途5,000ドル以下の例外が設けられています。ただし、この5,000ドル例外にも、超過分配や売却・処分益がないことなどの条件があります。

25,000ドルは一つのPFICだけで判定しない

もう一つの重要なポイントは、25,000ドル基準を、例外を適用したい一つのPFICだけで判定するわけではないことです。

原則として、納税者が直接または間接に所有するPFIC株式を合計して判定します。この合計には、Section 1291ファンドだけでなく、QEFやSection 1296の時価評価選択の対象となっているPFICも含まれます。

たとえば、納税者が次の外国投資信託を保有しているとします。

  • PFIC A:8,000ドル
  • PFIC B:9,000ドル
  • PFIC C:12,000ドル

PFIC Cだけを見れば25,000ドル以下ですが、合計は29,000ドルです。そのため、一般的には25,000ドル基準を満たしません。

ただし、他の米国人を通じて保有するPFIC、別のPFICを通じて保有するPFICなど、合計価額の計算から除外される一定の株式もあります。間接所有がある場合は、単純な口座残高の合計だけで判断しないことが大切です。

なぜ先に超過分配を確認する必要があるのか

25,000ドル例外を判断する際には、次の順序で検討するのが実務的です。

  1. PFICの分配または売却・処分があったかを確認する
  2. 分配があれば、Section 1291の125%テストを行う
  3. 超過分配または売却・処分益があれば、Form 8621を作成する
  4. それらがなく、QEF、時価評価、選択などの提出理由もなければ、25,000ドル例外を検討する

これは矛盾ではありません。納税者はForm 8621を最初から最後まで作成しなければ例外を利用できないのではなく、例外の条件を確認するために必要な基礎情報を調べることになります。

必要となる主な情報は、当年の分配額、過去3課税年度の分配額、株式の取得日、保有期間、売却またはその他の処分の有無です。

分配に適用される125%テスト

Section 1291ファンドから当年に分配を受けた場合、一般的には、その分配額を過去3課税年度に受けた分配の平均額の125%と比較します。保有期間が3年より短い場合は、当年前の実際の保有期間を使用します。

125%を超える部分が超過分配となります。ただし、株式を取得した最初の課税年度に受ける分配については、原則として超過分配は生じません。

超過分配は株式単位で計算され、株主の保有期間中の各日に配分されます。当年およびpre-PFIC期間に配分される部分は通常所得として扱われます。一方、過去のPFIC年度に配分される部分については、各年度の最高税率による税額と利息を計算するSection 1291の特別制度が適用されます。

この計算は通常の配当所得計算よりも大幅に複雑になる可能性があります。

売却益には125%テストがない

PFICの分配と売却益を混同しないことも重要です。

Section 1291ファンド株式を売却または処分して利益が生じた場合、その利益は全額が超過分配として扱われます。分配の場合のように、過去3年平均の125%と比較する必要はありません。

したがって、年末残高が25,000ドル以下であっても、その年にPFICを売却して利益を認識していれば、25,000ドル例外は利用できません。

たとえば、年の途中にPFICを売却した結果、12月31日の残高がゼロになっていたとしても、売却益がある以上、「年末残高が25,000ドル以下だからForm 8621は不要」と判断することはできません。IRSのInstructionsも、Section 1291ファンドの処分益の全額を超過分配として扱うことを明記しています。IRSのForm 8621 Instructions

基準額以下でも提出が必要となるケース

つまり保有価額が25,000ドル以下でも、次の場合にはForm 8621が必要になる可能性があります。

  • 超過分配を受けた
  • PFICの売却または処分により利益を認識した
  • QEFに基づく所得を報告する
  • Section 1296の時価評価による所得または控除を報告する
  • QEF選択、時価評価選択、purging electionなどを行う
  • Section 1294の選択状況を報告する
  • その他のForm 8621提出要件がある

25,000ドルという数字だけを見て提出不要と判断するのではなく、「なぜForm 8621が必要になるのか」という提出理由を一つずつ確認しなければなりません。

子どもがPFICを保有している場合

子どもを扶養家族として米国税務申告書に記載しても、それだけで子どものPFICが親のPFICになるわけではありません。

PFIC上の申告義務は、誰が扶養家族を申告するかではなく、誰がPFICの直接または間接株主であるかによって判断されます。PFICの間接所有ルールは、法人、パートナーシップ、S Corporation、信託、遺産財団、PFIC間の所有関係などを対象としていますが、親子関係または扶養関係だけを理由に、子どもの直接所有株式を親へ当然に帰属させる一般的な規定ではありません。

したがって、子どもがPFICを実質的に所有している場合、原則として子ども自身についてForm 8621の提出義務を検討します。

ひとり親であれば、親自身が直接または間接に所有するPFICについて25,000ドル基準を検討します。夫婦合算申告の場合は、夫婦が所有するPFICについて合計50,000ドル基準を検討します。子どもが別に所有するPFICは、子どもが扶養家族であるという理由だけで、親または夫婦の基準額に自動的に合算されるものではありません。

一方、子ども自身については、子どもを株主として別途25,000ドル例外を検討します。子どもが複数のPFICを保有している場合には、子どもが所有する対象PFICの価額を合計します。

カストディ口座や名義口座では実質的所有者を確認する

子どもの名前で証券口座が開設されていても、口座名義だけで結論を出すことはできません。財務省規則上も、PFICの間接所有については形式ではなく実質を重視し、すべての事実関係を考慮するとされています。Treas. Reg. §1.1291-1(b)(8)

特に次の点を確認する必要があります。

  • 投資資金を誰が拠出したか
  • 子どもへの贈与が法的に完了しているか
  • 誰が配当や売却代金を受け取る権利を持つか
  • 誰が投資利益を享受し、損失リスクを負担するか
  • 親が単なる管理者なのか、実質的所有者なのか
  • 口座が信託、カストディ制度、名義預金その他の法的関係に基づくものか
  • 現地法上、口座資産の所有権が誰にあるか

たとえば、親が単に未成年者のために口座を管理しているだけで、資産が子どもに有効に贈与され、経済的利益も子どもに帰属しているのであれば、子どもがPFIC株主となる可能性があります。

これに対し、子どもの名前を使用しているだけで、親が自由に資金を引き出し、利益も親のために使用できるような場合には、親が実質的所有者と判断される可能性があります。

日本の名義預金や未成年者口座が関係する場合は、米国のPFIC規則だけでなく、日本法上の所有権、贈与の成立、口座約款、資金移動の証拠なども確認する必要があります。

米国居住者になる前からPFICを保有していた場合

日本に住んでいた時期に外国投資信託を購入し、その後グリーンカード取得や実質的滞在日数テストにより米国税務上の居住者となるケースもあります。

この場合、米国居住者になった日を理由として、株式の実際の保有期間が自動的に再スタートするわけではありません。原則として、保有期間は当初取得日から継続します。

ただし、PFIC制度上、株主または保有期間を引き継ぐ前所有者が米国人でなかった期間について、その外国法人は当該株主との関係ではPFICとして扱われません。このため、米国居住者になる前の期間は、後日のSection 1291計算においてpre-PFIC期間として扱われるのが一般的です。Treas. Reg. §1.1291-9(j)

その後に超過分配または売却・処分益が生じた場合、対象額は実際の全保有期間の日数に配分されます。

  • 当年に配分される部分:当年の通常所得
  • 米国人でなかったpre-PFIC期間に配分される部分:当年の通常所得
  • 過去の米国居住者としてのPFIC期間に配分される部分:Section 1291の税額および利息計算の対象

つまり、米国居住開始前の期間を無視するわけではありません。その期間も配分計算の分母となる保有期間に含まれますが、その期間に配分される金額には、過去PFIC年度に対する懲罰的な税額・利息制度は原則として適用されません。

なお、QEFに関連するみなし売却・みなし配当、Section 1296の時価評価、former PFICに関するpurging electionなどを行った場合には、PFIC上の保有期間がリセットされることがあります。過去の選択履歴を確認せずに売却年度の計算を始めないことが重要です。

Form 8621不要と判断する前のチェック項目

Form 8621を提出しないと判断する前に、最低限、次の事項を確認しておくことをお勧めします。

  • 保有する外国投資商品がPFICに該当するか
  • 直接・間接に保有するすべてのPFICを特定したか
  • 各PFICの実質的所有者は誰か
  • 年末時点の対象PFIC価額を正しく合計したか
  • 当年中に分配を受けていないか
  • 過去3年間の分配記録があるか
  • 売却、償還、解約、交換その他の処分がなかったか
  • QEFまたは時価評価選択が存在しないか
  • 過去にpurging electionを行っていないか
  • 米国居住者となる前の取得日と保有記録が残っているか
  • 25,000ドルまたは5,000ドル例外の適用根拠を記録したか

PFICの計算では、取得日、取得価額、年末価額、分配履歴、売却代金、為替レートなど、古い資料が必要になることがあります。金融機関が過去の記録を永久に保存しているとは限らないため、米国移住、グリーンカード取得、国際結婚、海外口座の名義変更などを予定している場合は、早めに資料を保存しておくことが重要です。

まとめ

Form 8621の25,000ドル基準は、PFICを少額保有する納税者にとって重要な例外ですが、Form 8621全体を免除するものではありません。

超過分配、売却・処分益、QEF、時価評価、PFIC関連の選択などがあれば、基準額以下でもForm 8621が必要になる可能性があります。また、扶養家族である子どものPFICが自動的に親へ帰属するわけではなく、カストディ口座や名義口座については、名義よりも実質的所有関係が重要です。

さらに、米国居住者になる前に取得したPFICについては、取得日からの保有期間が原則として継続する一方、米国人でなかった期間はpre-PFIC期間として区分されます。国境を越えた移住や家族間の資産保有がある場合には、25,000ドルという金額だけではなく、所有者、取得日、分配、売却、過去の選択を総合的に確認する必要があります。

本記事は一般的な教育および情報提供のみを目的としており、特定の納税者に対する税務、法律、会計または投資上の助言を構成するものではありません。PFICおよびForm 8621の取扱いは、所有形態、居住者となった日、取得履歴、分配・売却状況、QEFまたは時価評価選択、信託・カストディ関係などの個別事情によって大きく異なります。実際の申告や取引を行う前に、米国国際税務に詳しい専門家へご相談ください。

Similar posts

Get the latest Cross Border tax insights and Receive the link of  "Top 7 U.S. Tax Knowledge That Cross Border Professionals Must Know." 

Subscribe to our e-newsletter to get the latest information. You can always unsubscribe from the newsletter.