日本の投資信託を保有する在米日本人が見落としやすい「PFIC」という米国税制
「毎年CPAに依頼している。」
「FBARも提出している。」
「Form 8938も提出している。」
「だから、自分のアメリカ税務申告は問題ないはず。」
このように考えている方は少なくありません。むしろ、税務コンプライアンスに対する意識が高い方ほど、そのように考える傾向があります。
しかし、私たちはこれまで数多くの在米日本人の方々の税務相談をお受けする中で、一つの共通点を何度も目にしてきました。
それは、
「PFIC(Passive Foreign Investment Company)の申告だけが漏れていた」
というケースです。
驚くことに、このような方々は決して税務に無関心だったわけではありません。
むしろ、
- 毎年FBARを提出している
- Form 8938も提出している
- 日本の配当金もきちんと1040に申告している
- CPAへ依頼している
という、非常に真面目な納税者の方ばかりです。
では、なぜPFICだけが抜けてしまうのでしょうか。
PFICは「知らなくても不思議ではない制度」
私自身、日本人の方がPFICをご存じないことは決して不自然ではないと思っています。
理由は単純です。
日本で生活している限り、この制度を意識する必要がほとんどないからです。
例えば、
などを通じて購入した投資信託は、日本ではごく一般的な金融商品です。
ところが、アメリカ税法では事情が全く異なります。
これらの投資信託の多くは、米国税法上「PFIC」と呼ばれる特殊な外国投資会社に該当する可能性があります。
つまり、
日本では普通の投資信託でも、アメリカでは全く別の税制が適用されることがあるのです。
この違いこそが、多くの日本人がPFICを見落としてしまう最大の理由です。
CPAへ依頼していても見落とされることがあります
「CPAへ依頼しているから安心。」
もちろん、CPAへ依頼することは非常に重要です。
しかし、PFICは一般的な個人所得税とは別の専門分野です。
すべての税理士・CPAがPFICに詳しいとは限りません。
特に、
- 日本の金融商品
- 日本の投資信託
- 日本語の年間取引報告書
まで理解した上でPFICを処理できる専門家は、それほど多くありません。
これはCPAの能力の問題ではなく、
PFIC自体が非常に特殊で複雑な制度
だからです。
日本人によくあるケース
例えば次のようなケースです。
日本在住時代から投資信託を保有していました。
その後アメリカへ赴任、あるいは永住しました。
投資信託は毎年分配金を出しますが、その分配金は自動的に再投資され、保有口数が少しずつ増えていきます。
税務申告では、
- FBARへ口座を記載
- Form 8938にも記載
- 分配金は1040へ配当所得として申告
ここまできちんと行っています。
しかし、
Form 8621だけ提出していなかった。
実は、このパターンは決して珍しくありません。
Form 8621とは?
PFICを保有している場合、多くのケースでは
Form 8621
というIRSへの申告書を提出する必要があります。
このフォームは4ページ程度しかありませんが、その裏側では非常に複雑な税額計算が行われています。
一般的な1040とは全く異なるルールが適用されるため、多くの税務ソフトでも自動処理が難しい分野です。
何が問題になるのでしょうか
PFICで最も重要なのは、
通常の配当や売却益が、そのまま通常課税されない可能性がある
という点です。
一定の場合には、
「Excess Distribution(超過分配)」という特殊ルールが適用されます。
このルールでは、
- 高い税率が適用される可能性
- 過去年度へ所得を配分して税額を計算する仕組み
- 利息(Interest Charge)が追加される仕組み
などが存在します。
つまり、
通常の配当所得として処理しただけでは、本来の税額になっていない可能性があります。
FBARとForm 8938を提出していても安心できない理由
多くの方は、
「FBARも提出している。」
「Form8938も提出している。」
だから大丈夫と思われます。
しかし、
これらはあくまで
"資産を報告する制度"
です。
一方、
Form8621は
"PFIC課税を計算する制度"
です。
つまり、
FBARやForm8938を提出していても、
PFICの税額計算は別問題なのです。
この点が非常に誤解されやすいポイントです。
将来にも影響する可能性があります
PFICの問題は、
「今年だけの問題」
では終わらないことがあります。
例えば、
将来、
ような場合、
一定の条件では税務コンプライアンスを宣言する必要があります。
その際、
PFIC申告漏れが影響する可能性もあります。
もちろん、すべてのケースで重大な問題になるわけではありませんが、
将来の選択肢に影響する可能性がある以上、
早めに確認しておくことは大切です。
PFICを知ったら、すぐ売却した方がいいのでしょうか
これは非常によく受ける質問です。
答えは、
必ずしもそうではありません。
PFICでは、
売却方法やタイミングによって税額が大きく変わることがあります。
また、
QEF ElectionやMark-to-Market Electionなど、
状況によって利用できる制度が存在する場合もあります。
一方で、
利用できないケースもあります。
そのため、
分析を行わずに売却を決めることは避けた方がよい場合があります。
過去に申告漏れがあった場合はどうするのでしょうか
PFICを後から知った場合でも、
必ずしも手遅れというわけではありません。
状況によっては、
Streamlined Filing Compliance Proceduresなどの制度を利用して、
過去の申告を適切に修正できる可能性があります。
一般的には、
- 過去3年間の修正申告
- Form8621の作成
- 非故意(Non-Willful)であったことを説明するStatement
- 必要に応じた追加税額の計算
などが検討されます。
もちろん、すべての方に同じ方法が適用されるわけではありません。
保有期間、売却の有無、投資信託の種類、分配金の状況などによって最適な対応は異なります。
一番大切なのは「早めに確認すること」
PFICは、
「知らなかった。」
という方が非常に多い制度です。
そして、その多くは真面目に税務申告を続けてきた方々です。
だからこそ、
必要以上に心配する必要はありません。
一方で、
「FBARも8938も提出しているから安心。」
と思い込んでしまうことも避けたいところです。
もし日本の投資信託を保有したままアメリカへ移住された方であれば、一度、ご自身の申告にForm 8621が含まれているかを確認してみる価値があります。
問題は、「知らなかったこと」ではありません。
知った後に、適切な対応を取ることが何より重要です。
免責事項(Disclaimer)
本記事は一般的な教育・情報提供を目的として作成されたものであり、税務上または法的な助言を提供するものではありません。PFICの判定やForm 8621の提出義務、課税方法、修正申告の可否、Streamlined Filing Compliance Proceduresの適用可否などは、個々の事実関係や保有資産、保有期間、居住状況その他の事情によって異なります。本記事の内容のみに基づいて行動されることは避け、具体的な対応については、米国国際税務に精通した専門家にご相談されることをお勧めします。なお、税法およびIRSの取扱いは改正される可能性があるため、最新の法令・ガイダンスをご確認ください。