「日本で購入した投資信託をそのまま持ってアメリカへ移住しただけだから、特に問題はないだろう。」
このように考えている方は少なくありません。しかし、アメリカ税務では、日本ではごく一般的な投資信託が「PFIC(Passive Foreign Investment Company)」として扱われ、非常に複雑な税務ルールが適用される可能性があります。
実際、私たちがご相談を受けるケースでも、「FBARやForm 8938は提出していたが、Form 8621という書類は初めて聞いた」という方が数多くいらっしゃいます。
今回は、日本の投資信託とPFIC税制について、できるだけ分かりやすくご説明します。
PFICとは何でしょうか?
PFICとは「Passive Foreign Investment Company」の略で、1986年にアメリカで導入された税制です。
当時、海外の投資会社を利用して投資利益への課税を先送りするケースが増えていたため、そのような税務上の繰延べを防ぐ目的で制定されました。
その結果、多くの外国籍投資信託がPFICに該当する可能性があります。
つまり、日本では一般的な投資信託であっても、アメリカでは通常の投資商品とは全く異なる税務上の取扱いを受ける場合があるのです。
どのような人が対象になるのでしょうか?
次のような方は、一度ご自身の資産を確認することをおすすめします。
- アメリカ市民
- グリーンカード保持者
- アメリカ税法上の居住者
- アメリカ赴任中に日本の投資信託を保有している方
- 日本の証券口座を維持したままアメリカへ移住した方
例えば、楽天証券、SBI証券、野村證券、大和証券などを利用して購入した日本の投資信託は、PFICに該当する可能性があります。
もちろん、すべての金融商品がPFICになるわけではありませんが、多くの日本の公募投資信託は対象となる可能性があるため、注意が必要です。
Form 8621とは?
PFICに該当する場合、アメリカではForm 8621という申告書の提出が必要になることがあります。
Form 8621は、IRSの中でも非常に複雑な申告書として知られています。
単に「投資信託を持っている」というだけでなく、
- 保有期間
- 分配金
- 売却益
- 過去の配当履歴
- 過去の取得履歴
などを考慮しながら税金を計算する必要があります。
さらに、保有するPFICごとにForm 8621が必要になるケースもあり、保有ファンド数が多いほど作業量は大きく増えていきます。
実際によくあるケース
例えば、Aさんは2000年にアメリカへ移住し、グリーンカードを取得しました。
日本にいた頃から保有していた投資信託はそのまま維持し、毎年分配金が支払われていましたが、自動再投資が行われていたため、売却は一度もしていませんでした。
毎年、FBARやForm 8938は提出していましたが、PFICに関するForm 8621は一度も提出していませんでした。
後になって専門家へ相談したところ、日本の投資信託がPFICに該当する可能性があることが判明し、過去の申告内容を見直す必要が生じました。
このようなケースは決して珍しくありません。
なぜPFICは難しいのでしょうか?
PFIC税制では、通常の配当課税とは異なる特別な計算方法が適用されることがあります。
代表的な計算方法では、
- 過去3年間の分配金を調べる
- 「Excess Distribution(超過分配)」を計算する
- 超過分配額を保有期間全体へ配分する
- 過去の各年について、その年の最高税率を用いて税額を再計算する
- さらに利息相当額を計算する
という非常に複雑な計算が行われます。
このような計算は、通常の所得税計算とは大きく異なり、専門的な知識と正確な保有履歴が求められます。
PFICが判明したらどうすればよいのでしょうか?
まず最も重要なのは、慌てないことです。
PFICの問題が判明したからといって、必ず多額の追加税金が発生するとは限りません。
最初に行うべきことは、
- 投資信託購入時から現在までの取引履歴を集める
- 保有商品がPFICに該当するか確認する
- Form 8621の提出義務を確認する
ことです。
もし過去の申告漏れが見つかった場合でも、状況によってはIRSのStreamlined Filing Compliance Proceduresなどの制度を利用して自主的に修正申告を行える可能性があります。
一方、追加の所得税が発生しないケースでも、Form 8621の提出が必要となる場合があります。そのため、「税金が増えないから問題ない」と自己判断するのは避けるべきです。
まとめ
日本の投資信託は、日本ではごく一般的な資産運用手段ですが、アメリカ税務ではPFICとして特別なルールが適用される可能性があります。
多くの方は日本で投資を始め、その後アメリカへ移住するため、この制度の存在を知らないまま何年も過ごしてしまいます。
しかし、PFICを後から知ったとしても、必ずしも手遅れというわけではありません。
大切なのは、早い段階で保有資産を確認し、必要に応じて専門家へ相談することです。
もし日本の投資信託やETFを保有しており、「自分も対象になるのだろうか」と不安を感じている場合は、一度状況を確認されることをおすすめします。
免責事項
本記事は一般的な情報提供および教育目的で作成されたものであり、税務、法律、会計その他の専門的アドバイスを提供するものではありません。PFICの判定やForm 8621の提出義務は、保有する金融商品の内容、取得時期、居住状況、税務上の事実関係などによって異なります。具体的な対応については、米国国際税務に精通した専門家へご相談ください。