#出国税

米国離脱税の純資産判定におけるソーシャルセキュリティと外国年金の扱い

米国市民権の放棄やグリーンカード返納を検討中の方へ。ソーシャルセキュリティ、日本の公的年金、外国の企業年金が、離脱税の純資産200万ドル判定とForm 8854にどう影響するかを解説します。


将来受け取る米国ソーシャルセキュリティの老齢給付は、一般に、米国離脱税における「純資産200万ドル」の判定に含めないと考えられます。一方、日本を含む外国の年金については、制度ごとの検討が必要です。同じ老後の収入でも、公的な社会保険給付、勤務先の企業年金、個人の退職年金口座では、米国税法上の扱いが異なる可能性があります。

米国市民権の放棄や、長期居住者に該当するグリーンカード保有者の米国税務上の居住資格の終了を検討する際、年金の評価額が200万ドルの基準を超える原因になることがあります。反対に、将来の公的給付をすべて個人所有の年金資産として計上すると、純資産を過大に算定するおそれがあります。日米両国で働いた経験のある方にとって、年金制度の正確な分類は、Form 8854の作成に欠かせません。

年金について分けて考えるべき二つの問題

離脱税の検討では、まず「年金の権利を純資産に含めるか」、次に「Covered Expatriateに該当する場合、その年金にどのような課税が生じるか」を分けて考えます。

Covered Expatriateとは、米国離脱税の特別な課税ルールの対象となる離脱者です。一般に、離脱日における純資産が200万ドル以上である場合、直前5年間の年間純所得税額の平均が離脱年に適用される基準額を超える場合、または直前5年間の米国連邦税務義務を履行したことを証明できない場合に該当します。出生時からの一定の二重国籍者や一定の未成年者には、条件付きで財務基準の例外があります。したがって、純資産が200万ドル未満であることだけで、対象外と判断することはできません。[1]

純資産は離脱日現在の価額で判定します。一方、一般的な時価評価課税(mark-to-market)は、対象資産を離脱日の前日に時価で売却したものとみなす制度です。年金などの繰延報酬には別のルールが適用されるため、時価評価課税の対象外であっても、純資産には含まれることがあります。[1, 2]

将来の米国ソーシャルセキュリティ給付を一般に含めない理由

米国ソーシャルセキュリティは、法律に基づく社会保険制度です。給与税の納付や所得の記録は、受給資格や給付額の計算に使われますが、本人が所有する個別の投資口座を形成するものではありません。

連邦最高裁判所のFlemming v. Nestor判決では、ソーシャルセキュリティの給付を受ける権利と、契約上の年金受給権が区別されました。米国社会保障庁も、保険料に相当する税金を支払ったからといって、将来の給付が変更されないという契約上の権利が生じるわけではないと説明しています。また、連邦法は、将来の給付を受ける権利の譲渡を原則として認めていません。[3, 4]

そのため、将来の月額給付の見込額は、本人が売却、贈与、引き出しできる資産残高とは性質が異なります。こうした制度の特徴は、将来の老齢給付の現在価値を離脱時の純資産に含めないという解釈の根拠になります。通常の将来給付は、一般に連邦遺産税の総遺産にも含まれず、内国歳入法第877A条(d)の繰延報酬としても通常扱われません。[2–4]

ただし、Notice 2009-85には「ソーシャルセキュリティを純資産から除外する」と名指しした規定はありません。この結論は、給付の法的性質と関連する財産・繰延報酬のルールから導くものであり、IRSが明示的に認めた除外規定として紹介すべきではありません。

なお、この説明は将来の給付についてのものです。すでに受け取り、銀行口座に残っている現金は、既存の資産です。ソーシャルセキュリティに由来する資金であっても、そのことだけで純資産の計算から除外されるわけではありません。

遺産税上の扱いだけでは純資産の判定はできない

Notice 2009-85は、一般的な時価評価課税の対象財産を特定する際、連邦遺産税の総遺産に関する考え方を用いています。しかし、純資産判定についてはNotice 97-19のSection IIIを参照し、所定の修正を加えた贈与税上の所有・評価の原則を適用します。[2, 5]

つまり、「死亡時に総遺産へ算入されない」という理由だけで、離脱時の純資産にも含まれないと結論づけることはできません。外国の年金には、引出権、死亡給付、保証期間など、米国ソーシャルセキュリティと異なる特徴がある場合があります。遺産税上の扱いは参考になりますが、Form 8854への算入の要否は、本人の権利と適用ルールを確認して判断する必要があります。

外国の企業年金や退職年金制度はどう評価するか

内国歳入法第877A条(d)(4)は、外国の年金制度や類似する退職制度・プログラムに対する権利を、繰延報酬項目の定義に含めています。外国で運営されていることや、その国で税制上の優遇を受けていることだけで、米国離脱税の対象から外れるわけではありません。[6]

通常の外国の退職年金制度については、原則として本人の権利の価額を純資産の検討に含めます。個人口座がある制度なら、口座残高を確認できることが多いでしょう。一方、給与や勤続年数に基づく算式で給付額が決まる確定給付年金では、将来給付の現在価値を年金数理に基づいて算定する必要がある場合があります。Form 8854の説明書も、米国および外国の年金や類似の退職制度の現在価値を記載するよう求めています。[1]

したがって、「自分名義の投資口座がない」という理由だけでは、除外を判断できません。企業年金にも、個別口座がなくても価値のある受給権を与える制度があります。公的社会保険の給付を同様に扱うかどうかは、名称ではなく、制度の法的な仕組みを調べる必要があります。

Covered Expatriateに該当する場合の年金課税

繰延報酬項目は、適格繰延報酬(eligible deferred compensation)と非適格繰延報酬(ineligible deferred compensation)に分かれます。適格繰延報酬では、一般に、離脱後の課税対象の支払いに対して30%の源泉徴収が行われます。非適格繰延報酬では、原則として、離脱日の前日にそれまでに累積した給付の現在価値を受け取ったものとみなし、所定の調整や例外を踏まえて所得に算入します。実際の現金を受け取っていない段階で、税負担が生じる可能性があります。[6]

適格扱いは、本人が希望するだけで選べるものではありません。支払者が米国人であること、またはこの目的で米国人として扱われるための要件を満たすことに加え、本人による必要な通知と、租税条約に基づく源泉徴収の軽減を受ける権利の撤回不能な放棄などが必要です。外国の年金管理者が対応できるか、適用可能な手続きがあるかを確認し、適格扱いを当然の前提にしないことが大切です。[1, 6]

一般的な時価評価課税における含み益の控除額は、この別枠の繰延報酬ルールで認識される所得には適用されません。過去に課税済みの金額や、その後の年金支払いに関する調整も確認が必要です。年金の評価額に単純にキャピタルゲイン税率を掛ける方法では、離脱税の負担を正しく見積もれない場合があります。[2, 6]

米国人となる前の国外勤務に関する例外

内国歳入法第877A条(d)(5)には、本人が米国市民でも米国居住者でもなかった期間に、米国外で行った勤務に対応する繰延報酬について、同条の繰延報酬課税の適用を除外する規定があります。日本人が米国税務上の居住者になる前に、日本で働いて獲得した年金給付を検討する際には、特に重要です。[6]

ただし、すでに米国市民であった人が日本で働いた場合には、この条件を満たしません。また、米国外へ引っ越しただけで米国税務上の非居住者になるとは限りません。複数の期間にまたがる年金では、どの勤務期間に対応する給付なのかを記録で確認し、必要に応じて配分します。Notice 2009-85は、参照する指針に沿った合理的な配分を認めています。[2]

この例外は繰延報酬に対する課税の問題であり、年金の権利を純資産から自動的に除外する規定ではありません。また、将来の年金支払いに対するあらゆる米国税を免除するものでもありません。制度の分類、純資産の評価、離脱時の課税、受給時の課税は、それぞれ検討する必要があります。

日本の厚生年金と国民年金をどう考えるか

厚生年金には、加入期間や報酬などの個人別の記録があり、「ねんきんネット」で年金記録や見込額などを確認できます。しかし、こうした記録があることと、加入者が個別の投資口座や資産残高を所有していることは同じではありません。[7]

日本の公的年金は、主として現役世代の保険料などで給付を賄う賦課方式を基本とし、積立金も活用しています。厚生労働省は、年金積立金には個人ごとの持分がないと説明しています。したがって、保険料の納付履歴や将来の受給見込額を、そのまま本人所有の積立口座の残高と考えるべきではありません。[8]

このような特徴は、日本の公的年金を米国ソーシャルセキュリティと類似する制度として検討する根拠になります。ただし、制度の類似性は解釈を検討する材料であり、IRSによる確定的な判断ではありません。本記事で取り上げた法令や資料は、厚生年金や国民年金の第877A条上の分類を明示的には解決していません。そのため、「個人口座のない外国の公的年金はすべて対象外」と断定することはできません。

検討にあたっては、法律に基づく公的年金、勤務先の企業年金、個人年金、個別口座のある退職制度を区別します。すべてを「日本の年金」としてまとめると、重要な違いを見落とす可能性があります。受給権の内容、引出しや一時金の権利、遺族給付の法的性質も確認する必要があります。

年金の評価が200万ドルの判定を変える例

長期居住者に該当するグリーンカード保有者が、年金を考慮する前の純資産として185万ドルを保有しているとします。将来の米国ソーシャルセキュリティ給付も見込まれていますが、老後の資金計画で経済的な価値を試算したという理由だけで、その将来給付を現在価値に換算して純資産へ加えることは通常しません。

一方、純資産に算入すべき通常の外国企業年金があり、その適切な評価額が25万ドルであるとすると、合計は210万ドルになります。企業年金の一部または全部が前述の国外勤務に関する例外に該当しても、純資産基準を満たす可能性があります。

追加の給付が日本の公的年金である場合には、同じ計算をする前に、その制度の分類を検討する必要があります。算入するかどうかでCovered Expatriateへの該当性が変わるケースでは、判断の影響が特に大きくなります。算入した場合と除外した場合の両方を試算することは有用ですが、最終的な申告では、根拠を説明できる立場を採る必要があります。

離脱前に準備しておきたい年金資料

離脱日を決める前に、年金制度ごとに資料を集めましょう。制度の規約や根拠法令、口座明細、給付見込額、勤務期間、拠出履歴に加え、米国市民権と米国税務上の居住者であった期間を整理することが役立ちます。管理者から示された金額が、拠出額の累計なのか、現在の口座残高なのか、将来の年間受給額なのかも確認します。

評価が必要な制度については、評価日、為替レート、給付の前提条件、計算方法を記録します。公的年金の分類に不確実性がある場合は、申告上の扱いを支える法的分析も残します。早めに着手することで、必要な資料を入手し、Covered Expatriateの判定と税額の両方を検討する時間を確保できます。

CHI Borderでは、国境をまたいで生活する個人とご家族のために、米国離脱税のプランニングとForm 8854の作成をサポートしています。米国ソーシャルセキュリティ、日本の公的年金、外国の企業年金などをお持ちの方は、それぞれの制度が離脱時の純資産判定と税負担にどう影響するか、ご相談ください。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務または法律上の助言ではありません。年金の分類と米国離脱税の取扱いは、根拠法令、制度の規約、勤務歴、市民権、税務上の居住資格、その他の事実関係により異なります。外国の公的年金については、明確に解決されていない論点が存在する場合があります。市民権の放棄、長期居住資格の終了、Form 8854での申告上の判断を行う前に、適切な専門家へご相談ください。

参考資料

本文中の番号は以下の資料に対応しています。フォームに関する説明は、確認時点で公開されている2025年版Form 8854説明書に基づきます。資料確認日 2026年10月2日。

[1] IRS Form 8854説明書 2025年版

[2] IRS Notice 2009-85 Sections 2 3 5

[3] 米国社会保障庁 Flemming v. Nestor

[4] Social Security Act 第207条 給付の譲渡制限

[5] IRS Notice 97-19 Section III Internal Revenue Bulletin 1997-10

[6] 内国歳入法第877A条

[7] 日本年金機構 ねんきんネットによる年金記録の確認

[8] 厚生労働省 年金制度に関するよくある質問 PDF 55ページ

Similar posts

Get the latest Cross Border tax insights and Receive the link of  "Top 7 U.S. Tax Knowledge That Cross Border Professionals Must Know." 

Subscribe to our e-newsletter to get the latest information. You can always unsubscribe from the newsletter.