はじめに:誤解が多い「ストリームライン3年で十分?」という質問
海外在住の米国市民やグリーンカード保有者にとって、出国(Expatriation)時の税務コンプライアンスは極めて重要です。
よく耳にする質問が、
「ストリームライン手続きで3年分の修正申告をすれば、出国準備として十分なのでは?」
結論を先に言えば、答えは NO(十分ではない) です。
なぜなら、ストリームラインはあくまで「行政プログラム」であり、出国要件として法律で定められている Form 8854 の 5年分コンプライアンスとは役割が全く異なるからです。
本記事では、
1. ストリームライン手続きと8854の目的の違い
✔ ストリームライン手続き
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過去の未申告を「最大3年間の修正申告」で整える
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IRSがペナルティを大幅免除
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あくまで行政プログラムであり、出国とは別の話
✔ Form 8854(エグジット手続き)
Form 8854 Part II, Line 7
「過去5年間すべての税務義務を遵守していたことを宣誓しますか?」
つまり、3年では2年分足りないことになります。
2. 8854が要求する「5年コンプライアンス」の中身
8854の指示書にはこう記載されています:
以下を含む、過去5年間のすべての税務義務を完全に履行している必要がある:
ストリームラインはあくまで「提出遅れの救済」であり、8854の必須要件とは一致しません。
3. 「違反」の定義 ― 故意の有無はどう判断される?
あなたが提出する税務書類はすべて、
penalties of perjury(偽証罪の罰則)
のもとで宣誓されています。
以下のいずれかに該当すると「違反」に該当します:
● 重要事項に関して虚偽の情報
● 提出書類が真実・正確ではないことを認識していた
● 法的義務を知りながら意図的に違反(=Willful)
また、「マテリアル(重要)な事項」とは以下のように定義されます:
税金の計算に必要な情報、または IRS が監査や確認に必要な情報
4. 出国を成功させるための実践アクション(最重要)
ここからは、本記事のメインテーマである 「どう解決するか」 にフォーカスします。
✅ ステップ1:5年分の書類をリスト化し、欠落を洗い出す
以下の5年分の資料を確認(推奨:スプレッドシート化):
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Form 1040
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付随する Schedule(B, C, D など)
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FBAR(FinCEN 114)
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Form 8938
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Form 5471 / 8865(海外法人・パススルー)
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Form 3520 / 3520-A(海外信託)
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贈与税 Form 709
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雇用税関連
欠落・誤りを可視化することが第一歩。
✅ ステップ2:5年分を完全に整えるための修正申告を実施
3年分のストリームラインだけでなく、
足りない2年間も修正申告(Amended Return)で整える必要があります。
特に注意が必要なのは:
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海外法人(CFC)
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不動産売却
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海外口座利息
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Crypto取引
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ギフトや相続
複雑な場合はプロのサポートが必須。
✅ ステップ3:税金・利息・ペナルティを全額支払う
8854は**「支払済み」であることも要件**です。
未払いがあるまま提出すると、認証が成立しません。
✅ ステップ4:出国年のForm 1040+1040NRの dual-status return を正しく準備
出国年(Expatriation Year)は特殊で、
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出国日まで:1040(米国居住者)
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出国日以降:1040NR(非居住者)
を組み合わせた Dual-Status Return となります。
ミスが最も多いポイントです。
✅ ステップ5:Form 8854 を正しく準備し、宣誓のリスクを理解する
8854は「単なるフォーム」ではありません。
偽証罪の宣誓のもと、5年分の完全なコンプライアンスを保証する公式文書です。
🔍 【追加アドバイス】間違って提出した8854はどうなる?
8854の誤りは、
- 正しいForm 8854を手紙付きで送付して、IRSの職員の承認を得る
-
しかし監査リスクが一般的に高くなる
という特徴があります。
そのため、提出前のレビューが極めて重要です。
5. エグジット準備におけるよくある誤解と落とし穴
❌ 誤解1:ストリームラインは出国に使える
→ 使えない。目的が違う。
❌ 誤解2:3年と5年は大差ない
→ 8854は法律で5年を要求している。3年では不合格。
❌ 誤解3:FBARや8938は関係ない
→ 5年コンプライアンスには情報申告も含まれる。
❌ 誤解4:税金さえ払えばOK
→ 書類不備も「違反」になる。
6. 今すぐ取るべきアクションのまとめ(チェックリスト)
🔲 5年分の税務申告があるか確認
🔲 5年分の情報申告(FBAR/8938等)が揃っているか
🔲 ギフト・海外法人など特殊書類に漏れがないか
🔲 未払い税・利息が残っていないか
🔲 Expatriation Year の Dual-Status Return の計画
🔲 Form 8854 の草稿を事前レビュー
🔲 専門家との相談をスケジュール
7. 最後に:この手続きはあなたの人生の「税務卒業式」
Expatriation(米国税制からの離脱)は、人生の転換点です。
そして、**間違った8854提出は「卒業証書の取り消し」**に繋がりかねません。
ストリームラインの3年で安心せず、
5年コンプライアンスを正しく整え、確実なエグジットを実現していきましょう。
📞 専門家への相談(CHI Border Tax Team)
動画資料内に掲載のとおり。
📄 免責事項(Disclaimer)
本記事は一般的な教育目的の情報提供を目的としたものであり、
税務、法律、会計その他の専門的アドバイスを構成するものではありません。
内容は最新情報を反映していない場合があり、
本記事に基づいて行われた行為または不作為について
当社は一切の責任を負いません。
必ず、あなたの具体的状況に応じて、
適切な税務専門家・弁護士などにご相談ください。