米国永住権を放棄する前に把握しておくべき、税務上の義務と手続きを徹底解説します。
永住権放棄の税務上の影響を理解する
米国の永住権を放棄する際には、税務上の様々な影響が発生します。まず、IRS(アメリカ国内歳入庁)に対し、最終的な納税義務を果たす必要があります。これには、放棄する年の納税申告はもちろんのこと、未申告の年がある場合はそれらの正しい申告と納税を完了させることが含まれます。
また、税務上の永住権放棄の日から前5年間の納税申告と納税の履歴が問題となります。特に、大きな金額の資産を保有している場合や、高額の所得を得ている場合には、Exit Tax(出国税)の対象となる可能性がありますので、少なくとも2年前までには、自身が出国税の対象になるかを予想すべきです。また、海外金融口座などの税法のコンプライアンスをしていない場合も、資産がない場合でも出国税の対象になる場合があります。
放棄前に確認すべきIRSフォームと提出期限
永住権を放棄する前に、IRSフォーム8833(出国税申告)や8854(出国情報声明)の提出が必要になる場合があります。フォーム8854は、永住権放棄者が過去5年間の連邦税の納税義務を果たしていることを示すために用います。これらのフォームは放棄する年の税務申告とともに提出する必要があり、期限を守らなければ厳しいペナルティが課される可能性があるため、注意が必要です。
具体的には、フォーム8854は放棄後の最初の納税申告期限までに提出する必要があります。つまり期限は通常の申告と同じで翌年の4月15日ですが、半年の延長が可能です。このフォームの提出がない場合、出国税の対象となる可能性が高まります。またこの半年の延長に加えて、さらに2ケ月の延長もできる場合がありますが、こちらは手紙でIRSに申請をします。
また最後の年の申告としてフォーム1040NRを提出しないといけません。こちらは通年ではなく、Part Yearと言われる申告になります。米国居住期間をカバーした税務申告書です。フォーム8854とフォーム1040NRは夫婦合算申告はできませんので、夫婦の場合は2セットの申告書を作成します。
連邦ではありませんが、州の申告書も出さないといけない場合が多いです。これは連邦と同じようにPart Yearと言われる通年ではない申告になります。予定納税なども発生するリスクがありますので、事前に注意しましょう。
Exit Tax(出国税)の計算方法と対象者
Exit Taxは、永住権を放棄する際に課される可能性のある税金です。これは、放棄する年の1月1日時点での純資産の時価総額が2百万ドル以上、または過去5年間の平均年間納税額が特定の金額以上である場合(これは毎年変動するため、最新の金額を確認する必要があります)、または過去5年間の連邦所得税申告が完全でない場合に適用されます。完全でないとは、税法を順守していなかったという意味です。
Exit Taxの計算は複雑で、全ての資産と負債を公正市場価値で評価し、その差額に基づいて税金が計算されます。対象者は、放棄前に十分な対策を講じることが推奨されます。また、別途適格退職年金、つまり401(k)、IRAなどにも別途課税されます。さらに米国以外で獲得した海外企業年金などにも、米国滞在期間で獲得したとみなされる部分は課税対象です。
放棄後の米国内源収入に関する税務処理
永住権を放棄した後も、米国内で発生した収入(米国内源収入)については、非居住者としての税務申告が必要になる場合があります。具体的には、米国内での不動産の所得や、米国企業からの配当などがこれに該当します。
永住権を放棄したら、フォーム W-8BENを提出して、金融機関にあなたが米国の税務上の居住者でないことを通知します。この W-8BENのフォームは米国において居住者としての課税をストップさせる意味があります。
非居住者としての税務処理には特有のルールがあり、適切な申告を行わなければペナルティを科される可能性がありますので、放棄後も米国内源収入が見込まれる場合には、専門家のアドバイスを求めることが賢明です。
永住権放棄後も続く税務上の義務と注意点
永住権を放棄した後も、IRSへの情報提供義務が続くことがあります。例えば、米国に退職年金口座を残していく人の一部分は毎年フォーム8854の提出を求められます。
また、米国内でビジネスを継続する場合、税務上の居住者と見なされる場合がありますので、放棄後の滞在日数やビジネスの性質によっては、税務上の居住者の義務が続く可能性があります。これらの点を念頭に置きつつ、適切な手続きを行うことが重要です。特にやっかいなのは、米国のLLCのメンバーでいるような場合です。あるいは、米国に賃貸不動産を維持する、米国の信託からDistributionを受けるような場合です。
永住権の放棄の際の税務は複雑で、人生一度のプロセスです。必ず専門家に相談しながら進めましょう。