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米国出国準備:ストリームライン手続きの3年間の申告で十分なのか?

作成者: Koh Fujimoto|2025/11/15 16:09:30

はじめに:誤解が多い「ストリームライン3年で十分?」という質問

海外在住の米国市民やグリーンカード保有者にとって、出国(Expatriation)時の税務コンプライアンスは極めて重要です。
よく耳にする質問が、

「ストリームライン手続きで3年分の修正申告をすれば、出国準備として十分なのでは?」

結論を先に言えば、答えは NO(十分ではない) です。

なぜなら、ストリームラインはあくまで「行政プログラム」であり、出国要件として法律で定められている Form 8854 の 5年分コンプライアンスとは役割が全く異なるからです。

本記事では、

  • なぜ3年では不十分なのか

  • 8854 が求める「5年間の完全なコンプライアンス」とは何か

  • 違反の定義とリスク

  • 出国前に何を準備すべきか(実践的アクション)
    をわかりやすく解説し、確実にエグジットを成功させるためのステップをご紹介します。

1. ストリームライン手続きと8854の目的の違い

✔ ストリームライン手続き

  • 過去の未申告を「最大3年間の修正申告」で整える

  • IRSがペナルティを大幅免除

  • あくまで行政プログラムであり、出国とは別の話

✔ Form 8854(エグジット手続き)

  • 米国外へ税務上の居住を終了するための法的要件

  • 出国年に提出が義務付けられたフォーム

  • 5年間連続の税務コンプライアンスを宣誓する必要がある

Form 8854 Part II, Line 7
「過去5年間すべての税務義務を遵守していたことを宣誓しますか?」

つまり、3年では2年分足りないことになります。

2. 8854が要求する「5年コンプライアンス」の中身

8854の指示書にはこう記載されています:

以下を含む、過去5年間のすべての税務義務を完全に履行している必要がある:

  • 所得税

  • 雇用税

  • 贈与税

  • 各種情報申告(FBAR、8938、5471、3520等)

  • 全ての税金・利息・ペナルティの完全支払い

ストリームラインはあくまで「提出遅れの救済」であり、8854の必須要件とは一致しません。

3. 「違反」の定義 ― 故意の有無はどう判断される?

あなたが提出する税務書類はすべて、
penalties of perjury(偽証罪の罰則)
のもとで宣誓されています。

以下のいずれかに該当すると「違反」に該当します:

● 重要事項に関して虚偽の情報

● 提出書類が真実・正確ではないことを認識していた

● 法的義務を知りながら意図的に違反(=Willful)

また、「マテリアル(重要)な事項」とは以下のように定義されます:

税金の計算に必要な情報、または IRS が監査や確認に必要な情報

4. 出国を成功させるための実践アクション(最重要)

ここからは、本記事のメインテーマである 「どう解決するか」 にフォーカスします。

ステップ1:5年分の書類をリスト化し、欠落を洗い出す

以下の5年分の資料を確認(推奨:スプレッドシート化):

  • Form 1040

  • 付随する Schedule(B, C, D など)

  • FBAR(FinCEN 114)

  • Form 8938

  • Form 5471 / 8865(海外法人・パススルー)

  • Form 3520 / 3520-A(海外信託)

  • 贈与税 Form 709

  • 雇用税関連

欠落・誤りを可視化することが第一歩。

ステップ2:5年分を完全に整えるための修正申告を実施

3年分のストリームラインだけでなく、
足りない2年間も修正申告(Amended Return)で整える必要があります。

特に注意が必要なのは:

  • 海外法人(CFC)

  • 不動産売却

  • 海外口座利息

  • Crypto取引

  • ギフトや相続

複雑な場合はプロのサポートが必須。

ステップ3:税金・利息・ペナルティを全額支払う

8854は**「支払済み」であることも要件**です。
未払いがあるまま提出すると、認証が成立しません。

ステップ4:出国年のForm 1040+1040NRの dual-status return を正しく準備

出国年(Expatriation Year)は特殊で、

  • 出国日まで:1040(米国居住者)

  • 出国日以降:1040NR(非居住者)

を組み合わせた Dual-Status Return となります。

ミスが最も多いポイントです。

ステップ5:Form 8854 を正しく準備し、宣誓のリスクを理解する

8854は「単なるフォーム」ではありません。
偽証罪の宣誓のもと、5年分の完全なコンプライアンスを保証する公式文書です。

🔍 【追加アドバイス】間違って提出した8854はどうなる?

8854の誤りは、

  • 正しいForm 8854を手紙付きで送付して、IRSの職員の承認を得る
     
  • しかし監査リスクが一般的に高くなる

という特徴があります。

そのため、提出前のレビューが極めて重要です。

5. エグジット準備におけるよくある誤解と落とし穴

❌ 誤解1:ストリームラインは出国に使える

使えない。目的が違う

❌ 誤解2:3年と5年は大差ない

8854は法律で5年を要求している。3年では不合格。

❌ 誤解3:FBARや8938は関係ない

→ 5年コンプライアンスには情報申告も含まれる

❌ 誤解4:税金さえ払えばOK

→ 書類不備も「違反」になる。

6. 今すぐ取るべきアクションのまとめ(チェックリスト)

🔲 5年分の税務申告があるか確認

🔲 5年分の情報申告(FBAR/8938等)が揃っているか

🔲 ギフト・海外法人など特殊書類に漏れがないか

🔲 未払い税・利息が残っていないか

🔲 Expatriation Year の Dual-Status Return の計画

🔲 Form 8854 の草稿を事前レビュー

🔲 専門家との相談をスケジュール

7. 最後に:この手続きはあなたの人生の「税務卒業式」

Expatriation(米国税制からの離脱)は、人生の転換点です。
そして、**間違った8854提出は「卒業証書の取り消し」**に繋がりかねません。

ストリームラインの3年で安心せず、
5年コンプライアンスを正しく整え、確実なエグジットを実現していきましょう。

📞 専門家への相談(CHI Border Tax Team)

動画資料内に掲載のとおり。

📄 免責事項(Disclaimer)

本記事は一般的な教育目的の情報提供を目的としたものであり、
税務、法律、会計その他の専門的アドバイスを構成するものではありません。
内容は最新情報を反映していない場合があり、
本記事に基づいて行われた行為または不作為について
当社は一切の責任を負いません。
必ず、あなたの具体的状況に応じて、
適切な税務専門家・弁護士などにご相談ください。