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Form W-8BENのLine 10はいつ記載するのか――Line 9だけでよい場合との違い

作成者: Koh Fujimoto|2026/09/08 21:06:09

米国の銀行、証券会社、投資先企業などから支払いを受ける日本居住者は、外国人であることや日米租税条約の適用資格を証明するため、Form W-8BENの提出を求められることがある。

Form W-8BENのPart IIは「Claim of Tax Treaty Benefits(租税条約上の特典の請求)」であり、Line 9とLine 10から構成されている。しかし、実務では次のような疑問が生じやすい。

  • Line 9に「Japan」と記載すれば十分なのか
  • Line 10にも租税条約の条文や税率を記載すべきなのか
  • Line 10を空欄にすると、租税条約の適用を受けられないのか
  • 銀行や証券会社からLine 10への記載を求められた場合、何を書くべきなのか

Line 10は、租税条約を利用するすべての人が必ず記載する欄ではない。Line 9とLine 10の違いを理解するためには、「居住者であることだけで適用される一般的な条約税率」と、「追加の要件を満たした場合にのみ適用される特別な税率または免税」の違いを理解する必要がある。

Line 9で証明する内容

Line 9では、所得の受益者が、米国との租税条約を締結している国の居住者であることを証明する。

日本の居住者が日米租税条約の適用を請求する場合、通常はLine 9に「Japan」と記載する。

この記載により、本人は単に日本に住所があると述べているのではなく、日米租税条約上の「日本の居住者」に該当することを証明している。したがって、日本の税法上の居住者であるか、他国との二重居住者になっていないか、租税条約上の居住地判定に問題がないかを確認する必要がある。

さらに、Form W-8BENのPart IIIでは、署名者が次のような事項を宣誓する。

  • Line 1に記載された者が米国人ではないこと
  • その者が対象となる所得の受益者であること
  • Line 9に国名を記載した場合、その国の租税条約上の居住者であること
  • Form W-8BENの内容が正確かつ完全であること

つまり、Line 9とPart IIIを合わせることで、「日本の租税条約上の居住者であり、対象所得の受益者である」という基本的な条約適用資格が証明される。

Line 10の役割

Line 10は、「Special rates and conditions(特別税率およびその適用条件)」を記載する欄である。

この欄には、必要に応じて次の情報を記載する。

  1. 適用を請求する租税条約の条文とパラグラフ
  2. 請求する源泉徴収税率
  3. 対象となる所得の種類
  4. その税率または免税を受けるための追加要件を満たしている理由

Line 10の中心的な目的は、Line 9とPart IIIだけでは確認できない「追加的な適用条件」を説明することにある。

したがって、Line 10は租税条約の条文や税率を機械的に転記する欄ではない。特別な税率や免税の適用に必要な事実関係を、支払者または源泉徴収義務者に説明する欄である。

Line 10を記載しなくてもよい場合

条約上の税率が、居住地国と受益者であることだけで決まる場合、通常はLine 9の記載とPart IIIの証明で足りる。

代表的な例は、上場株式から支払われる通常のポートフォリオ配当である。日本の居住者である個人が米国法人の株式を少数保有し、通常の配当を受け取る場合、一般的にはLine 9に「Japan」と記載し、Line 10は空欄とすることができる。

同様に、通常の利子についても、適用される税率が日本居住者であることと受益者であることのみを条件としている場合、Line 10への追加説明は一般的には必要ない。

IRSのForm W-8BENの説明書も、通常の利子や配当については、原則としてLine 10は適用されないとしている。ただし、保有割合に基づく特別な配当税率などを請求する場合は別である。

この場合、Line 10を空欄にすることは、租税条約の適用を放棄するという意味ではない。Line 9とPart IIIですでに必要な基本条件を証明しているため、追加説明が不要ということである。

Line 10を記載する必要がある場合

一方、条約上の優遇措置が追加的な事実関係に依存する場合には、Line 10への記載が必要になる。

1.株式保有割合に基づく特別な配当税率

租税条約では、通常のポートフォリオ配当と、一定割合以上の株式を保有する法人株主に対する配当とで、異なる税率が定められることがある。

特別な低税率を請求するためには、単に日本居住者であるだけでは足りない。受益者が所定の株式保有割合、保有期間その他の要件を満たしていることを説明する必要がある。

このような場合には、Line 10に適用条文、請求税率、配当所得であること、および株式保有要件を満たしている旨を記載する。

2.ロイヤルティ

租税条約によっては、著作権、特許、商標、ノウハウなど、ロイヤルティの種類によって異なる税率が適用されることがある。

どの条約規定が適用されるかを支払者が判断するためには、所得の性質を特定しなければならない。そのため、条約がロイヤルティの種類ごとに異なる税率を設けている場合、Line 10に所得の種類と適用条文を記載する。

ただし、すべてのロイヤルティについて常にLine 10が必要とは限らない。適用する租税条約の内容と、支払者が求める情報を確認する必要がある。

3.米国内の恒久的施設に帰属しない事業所得

外国人が米国源泉の事業所得について、米国内の恒久的施設に帰属しないことを理由に租税条約上の免税を請求する場合、Line 9だけでは十分でない。

日本の居住者であるという事実だけでは、米国内に恒久的施設が存在しないことや、その所得が恒久的施設に帰属しないことまでは証明できないからである。

Line 10には、事業所得または譲渡益が米国内の恒久的施設に帰属しないこと、適用条文、および請求する税率を記載する。

4.学生、研修生または研究者に対する条約免税

奨学金、研究助成金その他の所得について、学生、研修生または研究者に関する条約上の免税を請求する場合も、追加要件の説明が必要になる。

この種の免税では、渡米直前の居住地、渡米目的、教育機関または研究機関との関係、滞在期間、所得の性質などが重要になる。

したがって、単にLine 9に「Japan」と記載するだけでなく、Line 10に適用条文と要件を満たす理由を記載する。

なお、人的役務の対価に該当する奨学金や報酬については、Form W-8BENではなくForm 8233が必要になることがあるため注意が必要である。

5.送金主義に関する条約規定

一部の租税条約では、所得が居住地国に送金され、かつ同国で課税されることを条件として、米国での条約上の恩典が認められる場合がある。

この場合、「その国の居住者である」というLine 9の証明だけでは条件を満たしたことにならない。実際に送金された金額や、居住地国で課税対象となることをLine 10で説明する必要がある。

判断基準は「追加条件があるか」

Line 10を記載するかどうかは、次の質問で整理できる。

請求する税率または免税は、条約締約国の居住者かつ所得の受益者であることだけで適用されるか。それとも、それ以外の追加条件を証明する必要があるか。

前者であれば、一般的にLine 9とPart IIIで足りる。後者であれば、Line 10に条文、税率、所得の種類および追加要件を記載する。

条約上の取扱い Line 10
居住者・受益者であることだけで適用される一般税率 原則として不要
株式保有割合などによる特別税率 必要
恒久的施設がないことを条件とする免税 必要
学生・研究者など特定資格による免税 必要
所得の種類によって税率が異なるロイヤルティ 必要となる場合がある
支払者が追加説明を求めている場合 支払者の指示を確認

支払者独自の書式にも注意

Form W-8BENはIRSへ直接提出するものではなく、銀行、証券会社、雇用主、投資先企業その他の支払者または源泉徴収義務者に提出する。

そのため、IRSの一般的な説明書上はLine 10が不要と考えられる場合でも、金融機関が社内手続として記載を求めることがある。また、金融機関独自のオンライン版W-8BENでは、回答方法や入力項目がIRSのPDF版と異なる場合もある。

ただし、金融機関から記載を求められたからといって、条約の条文、税率または説明を推測して入力してはならない。対象所得の種類、受益者、居住地、適用条文および必要条件を確認したうえで記載する必要がある。

よくある間違い

Line 10に関する代表的な間違いとして、次のものが挙げられる。

  • すべての条約請求についてLine 10を記載する
  • Line 9と同じ内容をLine 10で繰り返す
  • 条約上の根拠を確認せず、一律に0%と記載する
  • 配当、利子、ロイヤルティなど所得の種類を明記しない
  • 特別税率の適用に必要な株式保有割合や恒久的施設に関する条件を確認しない
  • 米国市民または米国税務上の居住者がForm W-8BENを提出する
  • 金融機関独自の説明だけに頼り、IRSの説明書や租税条約を確認しない

特に、Line 10に誤った条約条文や税率を記載すると、源泉徴収不足が生じたり、後日追加税額を請求されたりする可能性がある。過大な源泉徴収が行われた場合には、米国所得税申告書を提出して還付請求が必要になることもある。

実務上の確認手順

Form W-8BENを作成する際には、次の順序で確認すると判断しやすい。

  1. 受領する所得が配当、利子、ロイヤルティ、年金、事業所得などのいずれに該当するかを確認する。
  2. 受益者の税務上の居住地国を確認する。
  3. 適用される租税条約の所得条項を確認する。
  4. 一般税率の適用か、特別税率または免税の請求かを確認する。
  5. 居住者・受益者以外の追加要件があるかを確認する。
  6. 追加要件があれば、Line 10に条文、税率、所得の種類および条件を記載する。
  7. 支払者または金融機関の独自の提出要領も確認する。

Line 10は「念のため何かを書いておく」欄ではない。適用する条約上の恩典について、Line 9とPart IIIだけでは証明できない追加条件を説明する必要がある場合に使用する欄である。この違いを理解することで、不要な記載を避けながら、必要な条約上の根拠を明確に示すことができる。

免責事項: 本稿はForm W-8BENおよび租税条約に関する一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件に対する税務、法務または投資上の助言ではありません。適用される源泉徴収税率およびForm W-8BENの記載方法は、所得の種類、受益者の居住地、米国滞在状況、株式保有割合、恒久的施設の有無、適用される租税条約および支払者の手続によって異なります。実際の提出にあたっては、最新のIRS様式・説明書、該当する租税条約および金融機関等の提出要領を確認し、必要に応じて米国税務の専門家に相談してください。